マジック・ランタン

美術館における鑑賞体験は作品のある展示室だけではない。美術館建築から芸術をとりまく環境は始まっている。今回は、フランスを代表するメーカー エルメスが日本のフラッグシップストアとして銀座に築いた《GINZA MAISON HERMÈS》を訪ねる。

光を包む建築

銀座・晴海通り沿いに凛と佇む一棟の建築。日中は清冽に光を受けて輝き、夜には温かな光を内からにじませるその姿は、まるで都市に浮かぶ “行燈・ランタン”のよう。

建築を手掛けたレンゾ・ピアノはこの建築物を《マジック・ランタン》と称している。まさに“光を包む”ランタンの概念が、建築スケールで具現化されているといえる。

《GINZA MAISON HERMÈS》の最大の特徴は、なんといっても約13,000枚におよぶイタリア製の特注ガラスブロックによるファサード。45cm角の透明度の高いブロックが整然と積み上げられたその外観は、建築というよりも巨大な光の彫刻であり、水晶のオブジェのように美しい。日が暮れると日中のキラメキから一転、優しく温もりあるオレンジ色の外観となり、銀座の夜を幻想的に照らし出す。

出典:RPBW

このプロジェクトの背後には、同年に生を受けたふたりの巨匠の存在がある。関西国際空港旅客ターミナルビル(1994年開港)を手掛けたことで知られる建築家レンゾ・ピアノと「風のアーティスト」として知られる彫刻家 新宮晋によるものだ。

このふたりは数多くのコラボレーションを通じて、建築とアートの融合を世界に提示してきた。

新宮晋《コロンブスの風》(1992年)+レンゾ・ピアノ《ジェノヴァ港再開発》(1985-2001年)
出典:Morgavi, Mattia
新宮晋《虹色の葉》(2021)+レンゾ・ピアノ《線565ブルーム・ソーホー》(2014-2019) 2021
出典: Joseph, Evan © Bizzi & Partners

《GINZA MAISON HERMÈS》の中心に配されている新宮氏の作品《宇宙に捧ぐ》は、周囲の風の力でゆるやかに姿を変え続ける。彼の真骨頂の”風のオブジェ”であり、ランタンを目指した建築と同じ世界観を演出している。

新宮晋《宇宙に捧ぐ》

《GINZA MAISON HERMÈS》は、間口約10m、奥行き約58mという細長い敷地に建ち、地下1階から3階はエルメス銀座店のフロア、5から7階はオフィス、8階はアート・ギャラリー、10階は予約制のミニシアターという構成。これは当時のエルメス社の社長ジャン・ルイ・デュマ氏の構想によるもの。その時の様子はエルメス社自身が180年超の歴史を記した漫画「エルメスの道」にも描かれている。

出典:LE CHEMIN D’HERMÈS エルメスの道《新章Episode1 銀座メゾン》
出典:LE CHEMIN D’HERMÈS エルメスの道《新章Episode1 銀座メゾン》
出典:LE CHEMIN D’HERMÈS エルメスの道 《新章Episode1 銀座メゾン》

このメゾンは逆さまの木なのです。根っこは空に伸びて、世の中の美しいものや時代のムードをキャッチする。それが栄養となって幹の部分、つまり職人たちのアトリエやオフィスで製品が育まれていく。そして果実こそエルメスの製品です。

エルメス社長 ジャン・ルイ・デュマ

出典:RPBW

銀座の中心において、この《GINZA MAISON HERMÈS》は都市空間と静かに呼応し、アート、建築、文化、時間が溶け合う「現代のランタン」として、人々に特別な体験をもたらしている。レンゾ・ピアノが思い描いた「マジック・ランタン」は、確かな存在感を示しながら、今日も銀座の地で輝いている。

美術館建築シリーズ

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