美術館における鑑賞体験は作品のある展示室だけではない。美術館建築から芸術をとりまく環境は始まっている。今回は茅ヶ崎市美術館を訪ねる。

この地にはかつて松籟荘という洋館が立っていた。昭和初期のスペイン風の別荘は諸事情であいにく取り壊されてしまったが、タイルや敷石、噴水などの遺構が残っており、美術館の敷地から当時の南ヨーロッパ風の近代別荘建築を伝えている。

美術館の建つ丘の麓には高砂緑地があり、松籟の名を今に伝えている。緑地の植物を可能な限り伐採しないよう配慮されて設計・建築が進められた。



特徴的な湘南らしい軽やかな屋根や可動ルーバーによる自然光を取り入れる仕組みが設けられている。これは「美術館は自然光の下でこそ輝く」という考えに基づいているのだという。






茅ヶ崎の地で生まれ育った山口氏の作品は、地元への恩返しなのか湘南エリアで全キャリアの8割以上を占めている。そんな茅ヶ崎を一番よく知る彼が、地域に根差した美術館としてこの茅ヶ崎美術館を作り上げた。屋根が白い鳥が羽ばたくようなデザインになっているのは、彼にとっては必然だったのだろう。
背景を辿れば、その場所に美術館がある意味が見えてくる。
