美術館における鑑賞体験は作品のある展示室だけではない。美術館建築から芸術をとりまく環境は始まっている。今回は埼玉県立近代美術館を訪ねる。
この埼玉県立近代美術館(MOMAS / The Museum of Modern Art, Saitama)は、日本における美術館建築の変遷を語るうえで、重要な転換点となった建築だ。

本館が建つ北浦和公園は、JR北浦和駅からほど近い広大で自然豊かな都市公園。1980年代、日本各地で「地方文化の象徴」として美術館建築が盛んに行われた時期に、このプロジェクトは始動した。設計を担ったのは日本モダニズム建築の巨匠であり、メタボリズム運動の中心人物としても知られる黒川紀章氏だ。当時黒川氏にとって初の美術館建築。後年に手掛けることになる国立新美術館やクアラルンプール国際空港といった、より大規模な公共施設の建築プロジェクトへと連なるキャリアのスタート地点とも言えるだろう。

本館は都市と自然をつなぐ「中間的空間」として構想されている。建物の1階部分にはピロティが設けられ、美術館の内部と公園の外部が連続する。この設計は、建築を「閉じた箱」ではなく、「開かれた器」として捉える黒川氏の思想を体現している。来館者は芝生や水辺を抜けて建物に近づくが、そのプロセス自体が展示空間への序章・入り口となる。アート鑑賞と建築的経験を結びつける空間的演出は、今日のミュージアム・デザインにも通じる重要な視点だ。


建物の中央には、4層吹き抜けのアトリウムが貫いており、ガラス製の屋根から自然光が豊かに降り注ぎ、空間に明るさと透明感をもたらしている。ここではミュージアムコンサートが行われることもあるという。



2階の展示室にも自然光を取り入れるファサードが設けられており、光の移ろいとともにアートを楽しめるよう工夫されている。


展示空間の内部は「可変性」を前提として設計されており、壁面や間仕切りの構成が自在に調整可能だ。

美術館の外観に大胆に「突き刺さる」ように設置された田中米吉氏の彫刻《ドッキング》は、大迫力かつ象徴的な作品。開館後に加えられたこのアートはまさに、美術館のコンセプトそのものを可視化しているかのようだ。



こうした彫刻作品は館内はもちろん、公園にも多数展示されていて見どころが多い。






埼玉県立近代美術館は単なるシンボル建築ではない。日本の美術館建築の系譜において非常に大きな影響を与え、その建築・都市・アートをつなぐ装置としての思想は、今なお意義を更新し続けている。
