世界の片隅にある美しさと温かさ

本書のタイトルである「月とコーヒー」という言葉の中に、この本のすべてが表現されている。「太陽とお水」といった生活する上での必需品があれば、人間は不自由なく十分に生きていくことができるかもしれない。しかし本書のタイトルは「月とコーヒー」なのだ。

つまり人生において太陽やお茶といったものだけが求められているのではなく、夜空に煌めく月や、芳ばしい香りのコーヒーといった嗜好品もまた求められていて、もし世の中に月やコーヒーが存在しなければ、世界は少しだけ退屈に感じるだろうし、人生の彩りが損なわれるかもしれない。

本書は何気ない日々の中を懸命に生きる”太陽やお水側ではない”人間たちの物語を描く。それぞれの主人公が紡ぐ日常の一コマを切り取って丁寧描いた24篇からなる短編集だ。

爽やかな気分の中に静かで豊かな余韻を感じる。そんな読後感を求める人にお薦めしたい。

著者はあとがきでこのように語る。

一日の終わりの寝しなに読んでいただく短いお話を書きました。先が気になって眠れなくなってしまうお話ではなく、あれ、もうおしまい?この先、この人たちはどうなるのだろうーと思いをめぐらせているうちに、いつのまにか眠っているというのが理想です。

ここに並べられた小説が、そうした役割を果たせるものかどうかわかりませんが、作者としては、そのような思いで書いたのです。

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