三菱一号館美術館

美術館における鑑賞体験は作品のある展示室だけではない。美術館建築から芸術をとりまく環境は始まっている。今回は三菱一号館美術館を訪ねる。

東京・丸の内のオフィス街に佇む煉瓦造の洋館、三菱一号館美術館。かつてこの地に建っていた日本初の本格的オフィスビル「三菱一号館」(1894年竣工)は、明治期に日本の近代建築に大きな足跡を残した英国人建築家ジョサイア・コンドルによって設計された。彼は鹿鳴館や岩崎邸なども手掛けた人物としても知られる。

老朽化と都市開発の波により1968年に惜しまれつつも解体されたが、2009年、当時の写真・図面・資料・煉瓦の再製などをもとに、三菱地所による忠実な復元プロジェクトによって同館は120年の時を超えて「復元」というかたちで蘇り、単なる建築の再現を超えた都市文化の再定義ともいえる試みだった。外観だけでなく、構造や内部のディテールも明治期の仕様に可能な限り倣っている。

三菱一号館美術館は、明治期に日本が迎えた近代建築の幕開けを象徴する存在であり、現代においても歴史と文化を内包する空間として親しまれている。

長い時を越えて甦ったこの赤煉瓦の洋館はガラス張りの高層ビルが立ち並ぶ丸の内の風景にあって、都市の記憶を静かに語りかける存在だ。その場所で芸術と出会うことは、作品を鑑賞する以上の意味を持つだろう。ここを訪れるという行為そのものが、現代における新たな芸術体験だといえる。

美術館建築シリーズ

Trip.com (トリップドットコム)